石川安藤総合法律事務所

相続放棄の管理責任と判例解説

お問い合わせはこちら

相続放棄の管理責任と判例解説

相続放棄の管理責任と判例解説

2026/04/09

 民法で「相続放棄」の規定がありますが、抽象的記載であるせいもあり、よくご質問を受けます。

 そこで、「相続放棄」をする者が、その「前」にしていいことと悪いこと、「後」にしてはいけないこと、しなければならないことについて、整理してみます。

 

1 相続放棄の基本ルール

  相続人は、相続開始(被相続人の死亡)を知ってから原則3か月以内(熟慮期間と言います)に単純承認、限定承認、相続放棄を選択することができます。一方、熟慮期間中でも、一定の行為をすると「単純承認」したと「みなされ」、相続放棄ができなくなります。

 

2 単純承認したとされてしまう行為

第921条【法定単純承認】では以下の通り規定されます。

 

次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。

一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。

二 相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。

三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。

 

⑴ 相続財産の「処分」行為を行った場合、単純承認したとみなされ、相続放棄できなくなります。 

  例えば、被相続人の預金を引き出して自分の生活費に使うとか、 不動産を売却するなどの「処分」行為が禁止されます。

⑵  禁止されるのは「処分」行為ですので、家の修繕(増改築などはダメです)など「保存行為」とか最低限の「管理行為」と評価される行為は「処分」行為になりません。

⑶ 抽象的には、遺産の維持管理に必要な行為が許されるように考えられますが、思わぬ行為がリスクありと言われることがあります。例えば、借地・借家契約の解除です。被相続人の死後誰も住んでいない不動産を維持するのは無駄であると考え、賃料が発生しない状態にしようと「遺産の維持管理」の気持ちで行ったのかもしれませんが、「借地権」「借家権」という相続財産の「処分」と考えられてしまうためです。

そこで、相続放棄を考えなら心を鬼にして遺産に触らないのがセオリーです。

 「心を鬼にして」といったのは、借家の整理は、大家さんのお願いがきっかけで行うことが多いからです。大家さんは賃料を貰えない状態であることが通常であり、被相続人の私物を処分し、借地契約を解約し、物件を返還することを求めます。お世話になった大家さんが困っているので、相続人として、善意で、わざわざ手間とコストをかけて被相続人の私物を処分し、借地契約を解約し、物件を返還したため、「処分行為」とされ相続放棄が出来なくなってしまうケースがあるのです。

 

ただ、葬儀費用の支払い、未払い医療費の支払い等を行ってしまったが、相続放棄が認められる場合もありますので、専門家に相談することをお勧めします。

 

3 相続放棄後にしてはいけない行為

第921条【法定単純承認】三号が規定しています。

三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。

 

⑴ 相続放棄をすると、相続時に遡って相続人ではなかったことになり、遺産に対して「権利」は有しなくなります。

⑵ 相続放棄をした後でも(後順位相続人が承認するまでの間に)相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったときは、単純承認にあたり、相続放棄できなかったことになります。

⑶ 一方、後順位相続人が承認した後は、無権利でありながら他人の財産を費消したことになり、損害賠償義務は不当利得返還義務を負うことになります。

 

4 相続放棄後にするべきこと

⑴ 相続放棄の効果は、相続時に遡って相続人ではなかったことになるので何も権利・義務が残らないかのように思えます。

⑵この点、改正民法第940条が以下の通り定めています(改正前にも同趣旨の規定はありました)

1 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第952条第1項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。

 

⑶ 相続放棄をしても「放棄の時に相続財産を現に占有しているときは」当該財産を他相続人や相続財産管理人・清算人に引き継ぐまで管理責任が残ってしまします。改正後まだ間もないですが「放棄の時に相続財産を現に占有しているとき」がどのようなときか相続放棄をした者に酷な場合がると考えられます。

 例えば、被相続人と同居していた子が相続放棄をした場合でも、同居していた子に管理責任が残るのは納得できます。

 しかし、生前は同居していなかったが「鍵を持っているだけ」「(相続人の)私物を置きっぱなしにしている」場合はどうでしょうか?」

今後の裁判所判断を見守る必要がありますが、「被相続人の家に住み続けている」「鍵を持って自由に出入りできる」ような場合、 家を「支配」している状態として「現に保管」している場合になる可能性が高いと思われます。

⑷ 他の相続人 、次順位の相続人、相続財産管理人・清算人 に引き継ぐまで義務があります。義務を負うのは保管していた当該財産だけです(例 通帳を保管しているだけなら通帳の管理義務があるだけで、占有していない不動産の管理義務が生じるわけではありません)

⑸ 「負」動産の管理責任を免れるため、相続財産(管理人・)清算人の申立てをせざるを得ない場合があります。(管理人・)清算人が管理責任を引き継ぎます。通常は、(管理人・)清算人が不動産を売却等(無償譲渡を模索することも多いと思われます)することで、管理の義務自体が無くなるというものです。しかし、(管理人・)清算人をしても、売却等処分ができない難しい「負」動産も存在します。(管理人・)清算人が存在するためには同弁護士の報酬の手当てが必要ですのでいつまでも管理させておくわけにはいきません。そこで、(管理人・)清算人にて、国庫帰属を目指すことが期待されます。

相続放棄+相続財産(管理人・)清算人まで検討すべきかよく検討が必要です。

目次

    当店でご利用いただける電子決済のご案内

    下記よりお選びいただけます。