石川安藤総合法律事務所

公正証書作成手続のデジタル化へ—制度改正の概要と実務への影響

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公正証書作成手続のデジタル化へ—制度改正の概要と実務への影響

公正証書作成手続のデジタル化へ—制度改正の概要と実務への影響

2025/11/21

1. はじめに

 契約や遺言など、重要な法律行為を「確かな形」で残すために利用されてきた公正証書制度。
 公証人が関与し、公文書として法的効力を持たせるこの制度は、長らく「対面」「紙」「押印」を前提として運用されてきました。

 しかし近年の社会情勢、特にデジタル社会の進展や働き方の多様化を踏まえ、2025年(令和7年)10月から、「公正証書作成に係る手続のデジタル化」が具体的に制度化されました。

 本コラムでは、改正の背景・新制度の概要・利用にあたっての注意点を、わかりやすく解説いたします。

目次

    2. 公正証書制度とは

    (1)公正証書の意義

     公正証書とは、契約や遺言などの内容を公証人が確認し、作成するものです。
     例えば次のような場面で利用されています。

     ・金銭消費貸借契約

     ・不動産の賃貸借契約

     ・債務弁済契約書

     ・離婚に伴う養育費や財産分与の取り決め

     ・遺言の作成

     公正証書の最大の特徴は、「公文書としての証明力」と「強制執行力」にあります。
     特に金銭の支払いを目的とする契約では、「債務者が直ちに強制執行に服する旨を陳述」した場合、裁判を経ずに「強制執行」が可能になるなど、非常に強い法的効果を持ちます。

    (2)従来の課題

     もっとも、従来の手続には次のような不便さがありました。

     ・公証役場へ当事者が出頭しなければならない

     ・書面での作成・押印が必要であり、電子署名やオンライン手続に対応していない

     ・遠隔地や海外居住者など、手続に時間とコストがかかる

    こうした課題を解消し、より利便性の高い制度にするため、デジタル化の検討が進められてきました。

    3. デジタル化の背景と法改正の流れ

     政府は「デジタル原則」に基づき、行政手続・司法関連手続のオンライン化を推進しています。
     その一環として、2023年(令和5年)に成立した「民事関係手続等における情報通信技術の活用等の推進を図るための関係法律の整備に関する法律」により、公証手続もオンライン対応が可能となる法的枠組みが整備されました。

     この改正に基づき、公証人法や関係省令が順次見直され、2025年10月から施行になりました。

    4. 改正のポイント

    (1)嘱託(依頼)手続のオンライン化

     これまで、公正証書作成を依頼する際は、公証役場でマイナンバーカードなどの本人確認に関する書面等を提出し、本人確認を受ける必要がありました。
     改正後は、電子証明書による本人確認により、メールを利用した嘱託を行うことが可能になります。
     企業や個人が自宅やオフィスからオンラインで手続きを進められるようになる点は、大きな利便性向上です。

    (2)オンラインでの面談(ウェブ会議)の導入

     公正証書作成の際、公証人が内容を読み聞かせ、当事者が理解・同意する手続が必要です。
     従来は対面のみでしたが、改正後はウェブ会議方式(Zoom等)による面談が可能になります。

     ただし、オンライン面談を認めるかどうかは、

     ・嘱託人(依頼者)の希望

     ・公証人が「相当」と判断するか

     によって決まります。すべての案件がオンラインで完結するわけではない点には注意が必要です。

    (3)公正証書原本の電子化

     これまでは、公証役場で紙の原本を作成・保管していましたが、改正後は電子データ(電磁的記録)を原本として作成・保存できるようになります。
     これにより、長期保存・検索・閲覧が容易になり、紙の管理負担が大幅に軽減されます。

    (4)正本・謄本の電子交付

     依頼者に交付される正本・謄本も、電子データでの交付が可能になります。
     希望に応じて従来通りの紙での交付も選択できます。
     電子ファイルを利用すれば、遠隔地の関係者間での共有もスムーズになります。

    (5)手数料体系の見直し

     電子化に伴い、手数料体系も整理されます。
     例えば、電子謄本交付の場合の手数料が新設される予定です。
     依頼前に、紙方式との費用差を確認しておくとよいでしょう。

    5. デジタル化によるメリット

     デジタル化は単なる「形式の変化」ではなく、実務に多くの利点をもたらします。

     ・出頭不要による利便性の向上
      遠方に住む方や多忙な経営者でも、オンラインで公正証書を作成可能になります。

     ・時間とコストの削減
      移動時間・郵送費・日程調整の負担が軽減され、手続全体が効率化します。

     ・書類管理の容易化
      電子データとして保存できるため、保管・再発行・検索が容易になります。

     ・災害時のリスク分散
      電子データ化により、物理的損壊や紛失のリスクが低減します。

    6. 利用にあたっての注意点

     一方で、デジタル化された手続には新たな留意点もあります。
     実際にご利用を検討される際は、次の点をご確認ください。

    (1)対応する公証役場の確認

     デジタル手続は段階的に導入されます。
     すべての公証役場がすぐに対応するわけではありません。
     依頼予定の公証役場がオンライン面談や電子交付に対応しているか、事前確認が必要です。

    (2)本人確認と意思確認の方法

     オンラインでの面談でも、公証人は厳格に本人確認・意思確認を行います。
     そのため、マイナンバーカードや電子証明書の提示、通信環境の整備などが求められます。
     代理人が関与する場合には、委任状や身分証明書を電子データで提出するケースもあります。

    (3)データ管理とセキュリティ

     電子データで交付された正本・謄本は、利用者自身で適切に保管・バックアップする責任があります。
     クラウド保存、外部媒体へのバックアップ、アクセス制限など、セキュリティ対策を検討しましょう。

    (4)提出先の対応状況

     銀行・登記所・官公庁など、提出先によっては「紙の謄本のみ受け付け」という運用が残る可能性があります。
     提出先が電子データを受理できるかどうか、事前に確認しておくと安心です。

    (5)オンライン面談に適さない場合も

     高齢者や判断能力に疑義がある場合、公証人が「オンラインでは真意確認が難しい」と判断すれば、従来通り対面での面談が求められる場合があります。
     制度上、すべての案件をオンライン化できるわけではないことに注意が必要です。

    7. 企業・個人それぞれの活用ポイント

    (1)企業の場合

     金銭消費貸借契約や業務委託契約などをオンラインで締結できるため、スピーディーな事業運営が可能になります。

     複数拠点の役員・担当者が参加する際、移動せずにウェブ会議で公証手続を完結できます。

     契約書の電子保存・共有が容易になり、内部管理コストを削減できます。

    (2)個人の場合

     遠方に住む親族との間での遺言公正証書作成がオンラインで可能に。

     離婚協議書や金銭貸借契約を、家庭やオフィスから安全に手続できるようになります。

     公証役場に出向くことが難しい高齢者・障がいのある方にも利用しやすい仕組みとなります。

    8. 法律事務所としてのサポート

     弊所では、以下のような支援を通じて、皆さまのスムーズな制度利用をサポートいたします。

     ・公正証書の作成内容・構成に関する法的助言・文案作成

     ・オンライン手続に必要な書類・署名方法の確認支援

     ・公証役場との連携・日程調整・面談立会い

     ・電子データ管理・保存に関するアドバイス

     ・紙方式との比較検討・最適な手続方式の提案

     改正制度では、オンライン化が進む一方で、本人確認や意志確認の厳格さはむしろ高まります。
     専門家の関与により、書類不備や形式的エラーを防ぎ、確実かつ安心して手続きを進めることができます。

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