相続放棄と相続分放棄の注意点詳解
2025/11/07
相続手続きにおいて、「相続放棄」と「相続『分』放棄」は混同されがちな重要な概念ですが、その性質や効果には大きな違いがあります。相続放棄は、相続人が初めから相続人でなかったものとみなされる手続きであり、債務も含めた一切の相続権を失います。一方、相続『分』放棄は、相続人の地位は保持しつつ特定の相続分(遺産)の権利を放棄するものです。これらの手続きを進める際には、法的な注意点や期限、書面提出の要件など、専門的な知識が欠かせません。「相続分譲渡」と合わせご説明したいと思います。
目次
相続放棄の整理
「相続放棄」
相続人が被相続人の財産(プラスの財産)や借金(マイナスの財産)など一切の権利義務を受け継がないとする意思表示のことです(但し、具体的には家庭裁判所での手続きが必要です)
プラスの財産(預金・不動産など)も
マイナスの財産(借金・保証債務など)も
両方を引き継がない、最初から(相続開始時から)相続人ではなかったものと扱われます。
相続放棄の手続きの説明
1 「自己のために相続があったことを知った時から3か月以内」に行う必要があります。この3か月間の事を「熟慮期間」といいます。「熟慮期間」は家庭裁判所において「熟慮期間伸長(延ばす)」手続きをとることで延ばせます。
2 家庭裁判所へ「申述」する必要があります。私人間で「相続放棄します」という書類の作成、やり取りをしても相続放棄になりません。
3 相続人は、熟慮期間内に「相続放棄」「限定承認(プラスの財産の限度内で債務を承継する手続きです)」
「単純承認」を選択します。熟慮期間内に遺産を処分した場合には「単純承認」したことになります。何もしない場合には 単純承認(全部相続) になります。
4 被相続人の最後の住所地の家庭裁判所で行います。具体的流れは各裁判所で少しづつ違いますのでご相談ください。
相続放棄で気を付けたいこと
相続人が相続放棄しようと考えるのは、被相続人に多額の借金がある場合とか、管理できない無価値不動産がある場合だと思います。相続してしまう(単純承認)した場合に、相続人に損害・不利益が生じてします場合でしょう。そこで、相続放棄の可能性がある場合には、相続人は、相続開始後慎重な言動が求められます。例えば、遺産を使ってしまった場合、相続放棄できない場合が出てきます。
問題ある相続放棄として相談が多いケースは以下の通りです。
熟慮期間の3か月過ぎた場合に放棄できるか?
遺産(預金)から医療費や葬儀費用を払ってしまった場合相続放棄できるか?
相続放棄後の空き家管理義務(相続放棄すればすべてが解決するのか?)
債権者対応とか、時順位の相続人対応が必要な場合
相続放棄は民法の条文に細かく書いていないこともあり、専門家に聞かないと分からない部分が多い分野です。問題ない事件では比較的容易な手続きの部類ですが、悩みがある場合には積極的に専門家に相談、依頼されることをお勧めします。
相続分譲渡とは
「相続分」の「放棄」より、「相続分」の「譲渡」のほうが分かりやすいので、「相続分」の「譲渡」から説明します。
相続分譲渡とは、相続人が自分の相続分(遺産を受け取る権利の割合)を、他の人に譲り渡すことです。
ポイントは、遺産を受け取る権利の割合、要はプラスの財産を受け取る権利の『割合』」であることと、「譲り渡し」です。『割合』という表現が分かり肉かもしれませんが、例えば、相続人が甲・乙・丙3人の場合、不動産(3000万円)とA銀行預金3000万円、B銀行預金3000万円がある時に、当然に甲が3000万円の不動産、乙が3000万円のA銀行預金、Cが3000万円のB銀行預金ときれいに分配されるわけではありません。甲乙丙が各1/3の『割合』で不動産を共有し、A銀行預金に権利を有し、B銀行預金に権利を有するのです。しかし、これが煩雑・不合理であることから、甲が3000万円の不動産、乙が3000万円のA銀行預金、Cが3000万円のB銀行預金のように帰属させることを「遺産分割」と呼ぶのです。
例:被相続人=父(母は既に他界)
相続人は、長男、長女、次男の3人(法定相続割合は各1/3)の場合で考えます。
この場合、次男が、遺産を受け取る権利の割合(プラスの財産を受け取る権利の割合)を長男に「譲渡」したらどうなるでしょうか?算数の問題で、長男の割合は元々の1/3+譲り受けた1/3=2/3となります。
「割合」が変わるだけですから、誰が、何を取得するのか「遺産分割協議」の問題が残ります。
問題は残りますが、2/3対1/3と構図が変わりますし、2人だけで話し合えばいいですので、3人の遺産分割よりシンプルになります。
相続分譲渡は、有償でも構いません。
先の例で、次男が、世話になった長男に、無償で自分の1/3の権利を譲ることも自由ですし、例えば紛争に巻き込まれるのは面倒だから300万円の対価で(有償で)譲渡することも可能です。後者の場合、長男は、遺産に対し2/3の権利(2000万円)を有しますが、次男に300万円を渡しますので実質的に1700万円を取得することになります。
必ずしも裁判所の手続きは不要です。
相続人以外の人が譲受人になることも可能です。
相続分譲渡は、遺産を受け取る権利の割合(プラスの財産を受け取る権利の割合)の譲渡ですので、資産がある場合に用いられるのが一般ですのであまり問題は顕在化しませんが、債務は他の相続人に譲渡できません(押し付けられません)。貸主保護のためです。
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相続分の放棄とは
相続人が、遺産を受け取る権利の割合(プラスの財産を受け取る権利の割合)を、単純に「放棄」することです。
相続放棄とは異なり、相続人の地位そのものの放棄ではありません。
(相続人の地位はそのままで)自分、遺産を受け取る権利の割合(プラスの財産を受け取る権利の割合)を「放棄」し、遺産は要らないというだけです。
特定の誰かに相続分を「譲渡」するわけではなく、自分は「放棄」(要らない)というだけですので、他の相続人に帰属します。
先の例で、次男が相続分を「放棄」すると、同人の1/3の権利が、長男と長女に平等に分配されます(結果、長男と長女が1/2・1/2の割合で権利を持ちます)。 「割合」が変わるだけですから、誰が、何を取得するのか「遺産分割協議」の問題が残ります。
「相続分」の「譲渡」の場合と同様、債務は他の相続人に譲渡できません(押し付けられません)。貸主保護のためです。
それぞれのメリット・デメリットを徹底比較
一番オーソドックスなのが遺産分割だと思われます。割合を決めるだけでなく、誰が何を取得するのか具体的分割方法まで定める終局的行為だからです。
「債務」から免れたい方は、「相続放棄」を選択することになります。
「相続人間の紛争」から逃れたい方は「相続分」の「放棄」又は「譲渡」になるでしょう。
特定の相続人に助力したいのであれば「相続分」の「譲渡」です。
戦術的に使い分けるべきですので、専門家への相談をお勧めします