現物換価代償分割の相続対応法
2025/10/29
相続が発生した場合、遺言がなければ、「遺産分割」を行います。
遺産分割(特に不動産を想定します)の方法として、「現物分割」、「換価分割」、「代償分割」(さらに「共有分割」)という方法が考えられます。
「現物分割」は、名前の通り、具体的な財産をそのまま現物で分ける方法です。
「換価分割」は、財産を「換価」して金銭化し、その換価金(現金)で分配する手法です。不動産であれば「換価=売却「預貯金=解約現金化」です。特に、分けにくい不動産を公平に分割する際に活用されます。
「代償分割」は、一方の相続人が特定の財産(不動産)を取得し、他の相続人に相当する代償金を支払う方法です。
それぞれの分割方法の特徴や法的ポイント、対応策について具体的に解説し、実務で役立つ知識を提供します。これにより、相続分割に関する理解を深め、適切な解決を促進することを目的としています。
目次
現物分割・換価分割・代償分割がある理由
遺産分割に関し、現行法は「法定相続割合」の概念がありますので、どうやったら平等に(法定相続割合で)分割できるか?を考える必要があります。
遺産分割は、
①何を分けるのか?(遺産の範囲)、
②不動産等の評価(時価評価)、
③特別受益・寄与分による法定相続割合の修正の有無、
④具体的相続分の枠内で何を取得するかの具体的帰属
の順でロジカルに考えていくのが原則です。
遺産が全て金融資産であれば、①遺産の範囲も、②評価も問題なく(③特別受益・寄与分による修正の有無を考慮の上)④1円単位で現預金を分割するのは難しくありません。
一方、遺産に不動産が含まれている場合、難しい問題を引き起こすことがあります。
そこで、不動産を例にご説明します。
最初に、本コラムの趣旨から少し離れますが、「不動産」について問題になりやすいのが、②評価です。
遺産(不動産)の評価は、法的には、固定資産税評価額や路線価、相続税評価額ではなく、「時価」評価になります。むろん、相続人全員が固定資産税評価額等で評価することを合意できれば問題ありませんが、合意できない場合には「時価」評価になります。
「時価」評価は、不動産業者による査定額とも、公示価格とも異なります。裁判所が選任する不動産鑑定士が評価した額で裁判所が採用した額になります。しかし、裁判所の遺産分割調停前とか、調停申立後でも裁判所鑑定前には存在しません。そこで、実際には、不動産業者の査定書などを参考に検討、交渉するところから始めます。しかし、不動産業者さんの査定は千差万別です。そのため、そもそもこの対象不動産はの「評価」は?が争点になります。そのため、不動産について「換価」して売価が時価とする方法が提案されることがあります。
現物分割
現物分割は、具体的な財産をそのまま相続人に分ける最も直接的な分割方法です。
最初に、相続人が兄と弟の2人だけ(法定相続割合は各1/2です)、遺産が不動産A=5000万円,不動産B=5000万円だけの例でご説明します。
①遺産の範囲は不動産が2つだけです。
②不動産Aも5000万円、不動産Bも5000万円です。
(③特別受益や寄与分の修正がなければ)④兄弟が各1/2を持ちますので、どちらかが不動産A、どちらかが不動産Bをそのまま現物取得すれば公平です。
現物分割のメリットは、財産を現金化せずに分割できるため、相続人が対象物の利用権をすぐにそのまま得られる点にあります。
しかし、実際には複数不動産がある場合には評価額が異なるケースが一般的であり、またそもそも複数の不動産が存在するとは限りませんので、きれいに現物分割できないケースの方が多いかと思われます。
また、現物分割の別のケースとして、大きな1筆の土地があるときに、等分に分筆して、各相続人が、それぞれ取得するというケースもあります。しかし、現実には稀でしょう。きれいに2つに分けられるような更地が存在するケースは少ないからです。そこで、他の分割方法を検討するケースが多くなります。
なお、遺産が、不動産A=5000万円と預金5000万円のケースでは、1人が不動産A,もう一人が預金5000万円を取得すれば一応公平な現物分割ですね。
換価分割
遺産が不動産しかないとか、遺産のほとんどが不動産である場合、「換価分割」にて問題を解決しようという発想が生まれます。
「換価分割」は不動産を売却により換価して(現金化)、現金を分けようという方法です。通常、不動産売却に要する経費(測量費や仲介手数料)は共同負担として、売却代金から経費を控除した純粋な利益を法定相続割合で分配することになります。
「換価分割」ですと、一般的には、不動産の時価評価はいくら?という問題が基本的にありませんし、現金で公平に分配できます。特に、不動産に興味がなく、現金で遺産を承継したいという相続人には魅力的な分割方法です。
しかし、不動産を維持承継したい人(例 当該不動産に居住している人)には困った制度です。そこで、相手方の換価分割の申し出を断ることになります、すると、代償分割を考えることになります。
代償分割
代償分割は、一方の相続人が特定の財産を単独で取得し、その取得分に相当する代償金を他の相続人に支払う分割方法です。この分割方法は、不動産など分割が難しい財産を巡る相続争いを回避しやすい点が特徴です。相続人が兄弟2人、遺産が不動産A=5000万円だけの場合で説明します。兄弟の各相続分は2500万円ですので、兄が不動産を単独取得する場合、2500万円多く取りすぎることになってしまいます。そこで、代償金として、弟に2500万円を渡して、兄・弟が、本件遺産相続で、2500万円宛取得し、公平に終わったことにします。
実際には、この内容で合意する場合には注意すべき点が何点かあります。特に裁判所の手続きでは注意が必要です。
代償金は、相続人の固有財産にて用意するのが原則です。裁判所の遺産分割審判では、代償金相当額を有していることについて証明を求められます。
なお、銀行で借入れをして原資を作りたといという場合があるかと思いますが、遺産分割の対象となっている不動産を担保に出して借り入れをすることは事実上来ません(相続人が固有に有する不動産を担保に借入を起こすことは可能です)。裁判所の遺産分割審判では、代償金を支払ったら、(代償分割を原因として)単独名義の登記をすることができるので、代償金を払うまでは被相続人名義であり、当該不動産を担保に金融機関の借入れをすることができないのです。なお、不動産A=5000万円と、金融資産5000万がある場合に、兄が不動産を取得し、弟が遺産である金融資産5000万円を取得するのは現物分割であり、代償分割ではありません。代償金は、遺産ではなく、相続人の固有財産を支払うことです。なお、代償として相続人固有の「金員」を払うほかに、相続人固有の「他の不動産」を差し出すことも考えられますが、税金の問題がありますので注意が必要です。
一方、遺産分割協議(話合い)で、不動産の登記名義を先に特定の相続人の単独名義とする合意をすること(代償金は後払い)は可能ですが、お金を払ってもらえってないのに不動産を相手方名義に変えることは代償金をもらう側にとってはとてもリスクが高いです。仮に、代償金の(後)払いがなければ、契約違反や未払いとして別の紛争を起こします。仲の良い親族間で、何も書面を作らず、相手方名義を認めてトラブルになった件が散見されます。支払方法や期限を明確に定めた書面を作ることは最低限必要です。
共有分割
遺産分割でありながら、不動産を分割することができず、不動産を「共有」として、事後の手続きに任せることがあり、これを「共有」分割といいます。
被相続人が不動産Aを有した状態で亡くなると、(登記は被相続人名義ですが)相続人兄弟2人で不動産Aについて1/2ずつの権利を有した状態が生じます。遺産共有の状態です。
一方、共有分割で分割を了すると、相続人兄弟2人が1/2ずつ登記することになります。このような状態になると物件共有です。これを解消する場合には、遺産分割とは別の、共有物分割という手続きを行います。
共有分割は、事案の抜本的解決にならず、場合によっては紛争相手との共有状態を継続させることを意味しますので、裁判所の遺産分割では最後の最後の選択と考えられるべきです。
不動産の遺産分割
現物分割、換価分割、代償分割(共有分割)といくつかの選択肢が用意されていますが、実際には使える選択肢が限られており(デメリット等がある)、不動産の関係する遺産分割はシビアな紛争になりがちです。
相談者に来られる方は、相手方相続人から不動産を売りたい(換価分割)と言われているのですが応じなければいけないのでしょうか?という視点で相談に来られます。そもそも、それは相手方の希望に過ぎませんので、こちらはこちらで希望を言うべきであり、相手方の要望を受け入れなければならないことはありません。もっとも、対案を出して協議を進めないと遺産分割協議が解決しません。不動産に関しては、そもそも評価をどうするかとか、特別受益・寄与分の主張により具体的相続分の枠を変えることができないか?ほかの争点にも着目すべきです。
不動産を含み遺産分割についいては専門家の助言が必要な事例も多く、是非専門家に相談されることをお勧めします。