自筆証書遺言の検認手続き完全解説
2025/10/22
自筆証書遺言は、遺言者自身が全文・日付・署名を自筆(及び押印)で記すことで作成できる手軽な遺言形式です。しかし、この遺言書を正式に効力あるものとして利用する(例 銀行の預金払い戻しや法務局での登記手続き)ためには、家庭裁判所での「検認」手続きを経る必要があります。
「検認手続き」は、家庭裁判所が遺言書の形式的な確認を行う手続きのことです。主に自筆証書遺言が見つかったときに必要になります(令和2年7月10日以降に作成された自筆証書遺言が法務局に保管されている場合は、検認は不要です)。検認手続きは、証拠保全の手続きです。相続開始後の遺言書の偽造や変造を防ぎ、遺言内容の公開により相続トラブルの未然防止にも役立ちます。本記事では、弁護士の視点から自筆証書遺言の検認手続きについて、その流れや必要書類、注意点を詳しく解説します。これから相続手続きを始める方や、自筆証書遺言の有効活用を検討している方にとって、理解を深めるための有益な情報を提供します。
目次
遺言の種類、自筆証書遺言とは?
遺言(一般の方は「遺言」と呼びますが、法律的には「いごん」と読みます)には、法律で定められた正式な種類がいくつかあります。今回は、皆さんが一般的に使うであろう 普通方式遺言について説明します
3種類あります。
① 自筆証書遺言(じひつしょうしょいごん)
言者が全文・日付・氏名を自書し、押印する方式です。押印は、必ずしも実印である必要はありません。
原則パソコンや代筆は不可となります(ただし、法改正があり、財産目録はパソコンによる作成が認められるようになりました。但し、作成時に要件がありますので注意が必要です)。
なお、法務局の「保管制度」が始まりました(2020年7月〜)。これは、自筆証書遺言の弱点(公正証書のメリット、自筆証書遺言のデメリットといえます)に対し新たに設けられた制度です。具体的には、自筆証書遺言に求められる「検認」手続きが不要になるます。また法務局保管ですので、作成後の紛失等のリスクも亡くなります。
自筆証書遺言のメリットは、何といっても「費用がかからず手軽」にできることです。
一方、デメリットは、検認手続きが必要(相続開始後の手間)、紛失等の恐れ、法形式の不備で無効になるリスクです。検認手続きは、家庭裁判への申し立てを要しますし、提出書類の準備もありますので、相続人としては手間でしょう。法務局の保管制度ができましたが、法形式の不備による無効は防げませんので、やはり、遺言作成には専門家関与が重要だと考えます。遺言が意味を持つのは、被相続人が亡くなった後ですので、作り直すことができない時期だからです。
② 公正証書遺言(こうせいしょうしょいごん)
公証人が遺言者の口述をもとに作成し、公証役場で保管してくれます。ただ、実際には、事前に弁護士等が案文を作成し、公証役場に持ち込みます。公証役場・公証人は「作成」「書面化」を行うところです。
作成時に、証人2人が必要となります。公証人とこの承認2人の立会いがあることから、遺言能力を否定される(遺言無効となる)リスクが減るのです。但し、公正証書遺言でも無効との判断が出されることもあります(その日、その時しか会わない公証人が、必ずしも遺言能力を見極められないこともあるからです)。そのような場合、案文を作成する弁護士が事前にきちんと本人の意思確認・希望を確認していることは、いわば3人目の証人であり、過去の裁判例でも重視されています。公正証書遺言でも、士業の関与は重要といえます(正直なところを言うと、遺言は、遺言者本人が積極的に作る場合より、相続人が被相続人にお願いして作成する場合が多いと感じています。実質的な依頼者は遺言者ではなく、相続人です。その際、弁護士の中には、遺言者を差し置いて、相続人とだけ打合せを行い、相続人の意向に沿った案文を作成し、相続人の確認だけをする者もいます。しかし、このような作成過程では、遺言無効確認の裁判では何の役にも立ちません。弁護士が遺言者本人の意思確認・意向確認をしたというステップが大事なのです。相続を専門とする弁護士と、相続に疎い弁護士の差ですね。
公正証書遺言の原本は公証役場に保管されるため、紛失・改ざんの心配がないと言われます(遺言者と執行者には正本・謄本という写しが渡されます。つまり3部保管です。仮に、正本・謄本を紛失しても、公証役場に問い合わせれば再発行してもらえます)。
公正証書遺言の場合には「検認」手続きは不要です。そのまま銀行に持参して払い戻しを受けることができますし、法務局で登記ができます(実施には司法書士の先生に手続き代行はお願いします)。
遺言能力を争われにくい(遺言無効となりにくい)、公証人による案文チェックがある、紛失等のリスクがないという点で、最も確実で法的トラブルが少ない形式といえます。
デメリットは、公証人に支払う手数料がかかり、手間がかかることです(必要書類の提出などもあります)。
自筆証書遺言と公正証書遺言を比較すると、誤解を恐れずに言うと、作成時に手間を要すか、相続開始後に手間を要すかという感じでしょうか。
③ 秘密証書遺言(ひみつしょうしょいごん)
内容を秘密にしたまま、公証人と証人2人の前で封印する方式です。自筆でもパソコンでも作成可能で、公証人は内容を確認しません。検認手続きが必要です。
内容を他人に知られずに作成可能な点はメリットですが、それ以外はデメリットばかりです。
これまでほとんど見たことがありません。
なお、普通方式遺言以外に、 特別方式遺言として、危急時遺言などがありますがここでは割愛します。船舶内や戦地など、通常の遺言の方法が取れない場合の特別なケースを想定しています。
検認手続き
一言、「証拠保全」手続きです。遺言の「有効」を確認する手続きではありません。詳しくは、遺言無効確認訴訟の項で説明します。
検認手続きの具体的な流れ
① 遺言書の発見
遺言書を発見したら、開封せずに家庭裁判所に提出します。
勝手に開封すると、過料(5万円以下)を科されることがあります。ただ、実施兄は開けてしまう方も多いです。封筒に「遺言」と書いてあれば良いですが、何も書いて無ければ封がしてある封筒を開けてしまうのは人情でしょう。また、そもそも、遺言書が必ずしも封筒に入って、封緘されているとは限りません。
(勧めるわけではありませんが)開封してしまっても、遺言が無効になるわけではありません。
そもそも封筒に入っていない遺言も有効です。
ただ、開封したことで、他の相続人から、「書き換えた」とか「2枚目があった」とか難癖をつけられる可能性がありますので、遺言と思ったら、開封せずに検認の場で(裁判官の前で)開封してください。
② 家庭裁判所への申立て
遺言の保管者、発見者は、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に「検認の申立て」を行います。
③ 家庭裁判所から相続人への通知
裁判所は、すべての相続人に検認期日を通知します。
④ 検認期日
家庭裁判所で遺言書を開封し、記載ないよづ明けでなく、封筒・封緘の有無、封筒やペンの色など状態などを確認します。後で調書に記載されます。
その際、裁判所が、立ち会った相続人に、遺言の状態を説明しつつ、筆跡や印鑑は遺言者のものと思うか?などの質問をするのが一般です。但し、ここでの発言(さらに言えば
また、通知を受けた相続人は、期日に出頭する義務はありません。出頭しないことで法律上不利益な立場になるわけではありません。繰り返しになりますが、検認手続きで、遺言の有効・無効を決するわけではありません。ただ、遺言の原本を直接見ることができる限られた機会ですので、遺言に疑問をお持ちの方(遺言無効確認を求めるかもしれない方)は、出頭して遺言書の「現物」を確認することをお勧めします。我々弁護士が代理出頭することも可能です。
⑤ 検認済証明書の交付
検認手続き終わると、遺言書原本には「検認済証明書」が付されます。これにより、遺言書が正式な形で効力を持つことになります。
原本保管の相続人以外の方は、検認調書という裁判所の書類を貰えます(買えます)。
⑥ 遺言の執行
検認済の遺言書をもって、銀行での払い戻しや、法務局での登記の名義変更が可能となります。
検認申立の必要書類
・検認申立書
・遺言書(現物)
・遺言者の出生から死亡までの戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本、申立人の戸籍謄本
・収入印紙(申立手数料:800円程度)、郵便切手(数百円〜1,000円程度、裁判所によって異なる)
自筆証書遺言・検認手続きと遺言無効
公正証書遺言は、(検認手続きを経ることなく)公正証書遺言をもって、金融機関や法務局に行けば、諸種手続きが進められます。遺言無効を主張する方は、早めに、遺言無効確認訴訟を提起します。
自筆証書遺言も検認手続きが終われば同様です。そこで、遺言無効を主張する方は、早めに、遺言無効確認訴訟を提起します。
公正証書遺言(一見してしっかり作ってあります)でも、自筆証書遺言(字がヨボヨボとか、一見して、本当に大丈夫かな?と思わせる体裁のものもあります)でも、有効が前提です。遺言無効を主張したい方が「遺言無効確認請求訴訟」により、地方裁判所に遺言「無効」を確認してもらう必要があるという意味では同じです。訴訟の判決まで時間がかかりますので、預金が払い戻されないよう金融機関に内容証明を送るなどフォローをしておきます。
なお、公正証書遺言と自筆証書遺言の「遺言無効確認訴訟」では、実際には、進め方が異なります。やはり小商人・証人がいる公正証書では遺言能力があることが前提ですので、「無効」を争うから方が積極的に「無効の材料・証拠」を提出する展開になりますが、自筆証書遺言は、公証人や証人といった裏付けがありませんので、遺言の「有効」を主張する側が「有効の材料・証拠」を提出する展開になります。
検認とは証拠保全
分かりやすいように自筆証書遺言で説明します。遺言無効のケースで想定される裁判所の関与は次の2回です。
家庭裁判所の「検認」手続き
地方裁判所の「遺言無効確認請求訴訟」
自筆証書遺言は、「検認」前は、実際には使えません(金融機関や法務局は、「検認」を要求します)。
しかし、一旦「検認」が終わると、金融機関や法務局で使える遺言になります。
そして、「有効」が前提で払い戻しや、名義変更が進んでいきます。
そのため、「検認」手続きが大事か?と言われれば、大事です。
しかし、「検認」は証拠保全手続きに過ぎないので、「検認」手続きで、「無効」を主張(例えば、被相続人の筆跡ではないとか、作成時は重度の認知症だったと主張)しても、遺言が無効になったり、手続きが止まったりすることはありません。
遺言が「無効」であると主張するためには、地方裁判所の「遺言無効確認請求訴訟」を要するのです!
「検認」は大事ですが、主戦場は「遺言無効確認請求訴訟」です。
まとめ
遺言者側視点
最後の遺志を確実に実現するためには、やはり作成時に手間・費用が掛かっても「公正証書遺言」が第一次選択だと思います。
遺産がもらえない相続人視点
まずは、遺言無効が言えそうな事案か(遺言無効確認請求訴訟を起こす場合にどのような資料を集めて検討すべきか?)早急に専門家に相談して、見立てをすることが重要です。
遺言無効確認請求訴訟を提起するのか?仮に遺言有効は受け入れないとしても、遺留分侵害額請求には期間制限があります。
そこで、早めの相談をお勧めします。
当事務所は、どちらの側の事件も経験豊富です。お気軽にご相談ください。