相続分譲渡の注意点と法的対策
2025/10/20
遺産分割交渉の前提として、または遺産分割交渉と並行して検討すべき法的手続きとして、「相続分譲渡」の交渉・合意があります。本コラムでは、相続分譲渡について説明し、遺産分割協議と合わせ且つ称する場面を説明します。
目次
相続分譲渡とは?
「相続分譲渡(そうぞくぶんじょうと)」とは、相続人が自分の相続する権利(相続分)を他の相続人や第三者に譲渡することをいいます。これは、遺産分割前の段階で行われる法律行為で、民法第905条に規定されています。なお、相続分の譲渡は、プラスの財産に対する権利の譲渡であり、債務まで譲渡し逃れるものではありません。その点で相続放棄等とは異なります。
相続分譲渡の手続き
相続分譲渡の手続きを理解するためには、まずは遺産分割協議(裁判所を用いた遺産分割調停でも同じです)の手続きを理解するのが有用です。遺産分割協議の一般的流れは以下の通りです。
① 相続人の確定
戸籍謄本を取り寄せて、法定相続人全員を確定します。
戸籍は被相続人の出生から死亡までをたどる必要があります。
② 遺産の内容を調査
遺産を調査します。
③ 遺産分割協議を行う
「相続人全員」が参加して、どの遺産を誰が相続するか話し合います。
『1人でも欠けると無効』(法的に意味がない)になるので注意が必要です。
④ 遺産分割協議書を作成
話し合った内容を書面にまとめます。
「全員が」署名・実印押印し、印鑑証明書を添付して出来上がりです。
「 」『 』を付けましたが、遺産分割(協議・調停)は、「全相続人」が合意して署名押印することが必要である。
例えば、相続人らの99%が承諾しても、最後の一人が承諾・合意しない場合には、遺産分割協議は成立しません。
一方で、相続分譲渡は「譲る側」と「譲られる側」の2当事者で成立します。他の相続人が、2当事者の相続分譲渡に反対しても、止めることはできません。2当事者間の権利の譲渡だからです。
相続分譲渡の種類
「相続分譲渡」とは、相続人が自分の相続する権利(相続分)を他の相続人や第三者に譲渡することをいいます。権利の「譲渡」(必ずしも譲渡=贈与ではありません)ですので、「有償で譲渡」することもあれば「無償で譲渡」するのでも構いません。
相続分譲渡証書の作成など
相続分を「譲渡する側」と「譲り受ける側」の間で、相続分譲渡証書を作ります。実印で押印し、印鑑証明を添付します。相続分譲渡が「有償」なのか、「無償」なのか、新たな紛争を起こさないように、相続分譲渡に関する合意書を作成しておきます。
相続分譲渡の利用場面
まずは、煩雑な遺産分割手続きを嫌う相続人から無償又は有利な条件で「相続分」の譲受を行います。
例えば、相続人が多数いる事案とかで、各相続人の主張がばらばらで交渉が難航するような場合を想定します。遺産分割はまとめなければいけません。しかし、当事者が多ければ交渉が難航します(被相続人が、結婚・離婚・再婚を繰り返して、全然知らない兄弟姉妹が多数いるケースなどが典型例です)。一方、相続人関心がないとか少ない相続人は、遺産分割の交渉に巻き込まれることを忌避します。そのような場合、遺産分割を是が非でも進めたいとか、有利に進めたい相続人は、遺産分割に先行して、相続に関心がないとか少ない相続人から無償で又は有利な条件で譲りうけてしまいます。そうすると、交渉相手が少なくなりますし、自身の相続割合を大きくできますので交渉がしやすくなります。
相続分譲渡のタイミング
対立相手方相続人との遺産分割交渉に入る前に相続分譲を受けるのが上策です。ただ、遺産分割調停申立後とかでも、相手方が相続分譲渡に応じるケースもありますので、適宜交渉を検討するのがいいと思います。裁判所外の遺産分割協議ですと、遺産の所得を希望して積極的に遺産分割協議書案に反対というより、面倒に巻き込まれたくないとか、怖くて遺産分割協議書に実印で押印するとか印鑑証明を出したくないという方も結構います。
相続分譲渡に関する裁判例(注意点)
例えば、お父様が無くなり、相続人がお母様と子供2人(長男・次男)のようなケースを想定します。
お父様の相続で、各相続人の法定相続割合は、お母様=1/2、長男-1/4、次男=1/4です。遺産分割協議をまとめる場合には、お母様、長男、次男の全相続人3人が遺産分割協議書に署名押印する必要があります。
このようなケースで、母が同居し家を守る長男に自分の相続分を譲渡したいと思うことがあると思います。そこで、母=取得無し、長男=3/4(母の1/2+長男固有の1/4)、次男=1/4という遺産分割協議を行う場合が考えられます。しかし、遺産分割協議は相続人全員が合意する必要があります。次男が、長男=3/4、次男=1/4という遺産分割協議案に応じないことは十分考えられます。そこで、母の相続分を、長男に相続分譲渡してしまい、長男=3/4、次男=1/4の相続割合を法的前提に交渉する(調停も申し立てる)ことが考えられます。次男は、母の長男に対する相続分譲渡を止めることはできません。
但し、注意すべきは、相続人3人で長男=3/4、次男=1/4の遺産分割協議をまとめる場合と、母の相続分譲渡を行ってから長男と次男で長男=3/4、次男=1/4で遺産分割協議をまとめる場合では、次の母の相続で異なる結論が待っていると言われます。母の長男に対する相続分譲渡は、母の長男に対する「生前贈与」に近い状況を作り出しますので、相続分譲渡について「特別受益」に当たるとする判例が出てしまいました。そこで、便利な相続分譲渡譲渡ですが、数字相続の場合には慎重を期す必要が出てきました。どのような事案で問題が生じるのか専門家に相談しながら進めていただければと存じます。
そこで、是非、多数当事者の複雑な事案は、専門家に相談いただき最善の進め方を模索いただければと存じます。
当事務所では相続分譲渡を利用した交渉・調停事件の経験も多数あります。お気軽にご相談ください。