寄与分とは何か?~相続人間の公平を実現する制度を弁護士が解説~
2025/09/19
相続を巡るトラブルは、被相続人の財産の大小にかかわらず発生し得ます。その中でも争いが起こりやすいのが、「長年親の面倒を見てきたのに、他の兄弟姉妹と相続分が同じ(法定相続割合)なのは納得できない」といったケースです。
このような不公平を是正する制度として、「寄与分」が民法に定められています。
本コラムでは、寄与分の制度の概要から、具体的にどのような場合に認められるのか、どのような手続が必要なのか、さらには注意点まで、弁護士の視点からわかりやすく解説します。
1. 寄与分制度の法的根拠と趣旨
寄与分は、民法第904条の2に定められており、以下のように規定されています。
「共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。」
法定相続分はあくまで原則
民法では、配偶者や子(第1順位の相続人)、親(子などがいない場合の第2順位の相続人)などに一定の割合で財産を相続させることを定めていますが、これは一律のルールにすぎません(法定相続割合)。現実には、被相続人に対する支援の程度や関与の仕方は相続人ごとに大きく異なることが多く、それを無視して機械的に分けてしまえば、大きな不満や紛争が生じます。
寄与分は、このような不公平を調整するための制度であり、単に感情論ではなく、法律上明確に認められた権利です。
2. 寄与分が認められるための要件
寄与分が認められるには、以下の3つの要件を満たす必要があります。
⑴ 対象者が「共同相続人」であること
寄与分を主張できるのは相続人に限られます。たとえば、被相続人の長男の妻が介護をしていた場合は、相続人ではないため寄与分の主張はできません。
ただし、後述するように、2019年の民法改正により「相続人以外の親族」にも特別寄与料の請求が認められるようになりました。
⑵ 「特別の寄与」が存在すること
通常の親子関係や家族間で見られる程度の支援では足りず、被相続人との身分関係において通常期待される程度を超える寄与でなければなりません。
⑶ 財産の「維持または増加」に寄与していること
単なる精神的支援ではなく、被相続人の財産に実際の影響を与えたものである必要があります。
3. 寄与分が認められる典型的なケース
⑴ 療養看護(無償での長期介護)
最も典型的なのが、被相続人の介護を長年にわたり無償で行っていたケースです。通常の親子関係や家族間で見られる程度の支援では足りず、被相続人との身分関係において通常期待される程度を超える寄与との要件がありますので、単に介護に関与していた程度(例 週1回通院に付き添った)程度では認められにくいといえます。特に、在宅介護を10年以上にわたり他の相続人がほとんど関与していなかった場合とか、重度の認知症の被相続人の世話をしてきた場合などは、寄与分が認められる可能性が高くなります。以前、裁判官が説明されていた例えでいうと、「お父(母)さんは、年をとって赤ちゃんに戻っただけなんです」「皆さんが赤ちゃんだった時にご両親に世話をしてもらったからと言って費用は発生しなかったでしょう」、「ですから、介護の全てについて寄与分が認められるわけではないですが、公平なはずの相続人間で不公平で、相続分を修正しなければ『かえって公平を害す』場合に認められるのが寄与分です」というものでした。
⑵ 被相続人の事業への無償従事
農業や個人商店など家業を無償または極めて低報酬で手伝っていた場合、事業の継続や拡大に寄与したと認められると寄与分の対象となります。その分遺産が大きくなった(減らなかった)のですから、やはり公平の観点から多くを相続させる必要があるといえます。
⑶ 財産的援助や債務の肩代わり
被相続人が経済的に困窮していたときに生活費や医療費を長年負担したり、住宅ローンの返済を代行したりしたような場合も、財産の維持への寄与として評価されることがあります。
4. 寄与分の主張方法と手続
⑴ 遺産分割協議で主張する
相続人全員が寄与分を認める場合は、遺産分割協議書にその旨を明記すれば有効です。裁判所を通さずに済むため、円満解決のためにも話し合いによる合意が望ましいです。
⑵ 寄与分を定める処分調停・審判(家庭裁判所)
家庭裁判所に「寄与分を定める処分調停」の申立てを行うこともできます。調停で話し合いがまとまらず調停不成立となったとき、遺産分割調停を共に申し立てていた場合には(一般的には、遺産分割調停の中で、寄与分等の主張が出てくるケースが多いといえます)、審判に移行します。家庭裁判所における手続を利用する場合には、介護記録、日記、領収書、第三者の証言など、寄与の「証拠」が非常に重要になります。
5. 相続人以外の寄与「特別寄与料」制度の新設(2019年民法改正)
以前は、相続人でない親族(例:長男の妻)がどれだけ献身的に被相続人を介護しても、その寄与が相続に反映されることはありませんでした。しかし、2019年の民法改正で以下の制度が導入されました。
民法第1050条(特別寄与料)
「被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続の放棄をした者及び第891条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。以下この条において「特別寄与者」という。)は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下この条において「特別寄与料」という。)の支払を請求することができる。」
ポイント:
・特別寄与料は相続財産から支払われるのではなく、他の相続人に対する金銭請求による
・相続開始と相続人を知った時から6か月、または相続開始時から1年間が経過すると家庭裁判所への申立てができない←実は、この期間制限が重要です。
・相続人以外の親族(嫁、甥姪など)にも権利が与えられた
6. まとめ
寄与分は、被相続人との関係性の深さや家族への思いを反映できる重要な制度です。しかし、それを実際の相続に反映させるには、客観的な証拠と法的な手続の正確な理解が不可欠です。
「私は十分に親に尽くした」と思っていても、それが法律上の寄与分と認められるとは限りません。主張が通らないどころか、他の相続人との関係悪化を招く可能性もあります。
そのため、寄与分を主張する際には、専門家である弁護士に早めに相談し、実務的かつ法的に正しい対応を取ることが必要な場合もあります。
当事務所は寄与分の問題を含め、数多くの相続に関する案件の実績がございます。どうぞお気軽にご相談ください。