特別縁故者とは?弁護士が解説
2025/08/29
人が亡くなったとき、その人(以下「被相続人」といいます)が持っていた財産は、原則として法定相続人が引き継ぎます。法定相続人とは、民法に定められた範囲の家族(配偶者、子、親、兄弟姉妹など)のことをいいます。
しかし現代社会では、法律上は独身で子どももおらず、兄弟も先に亡くなっているといった「相続人が存在しない人」も珍しくありません。
相続人がいないときには、その遺産は国のものとなる(国庫に帰属)と法律で定められています(民法第959条)。しかし、そのままでは、故人と親しかった人や生前に支援してきた人が何も得られず、不公平なケースも出てきます。
そのようなときに使われるのが「特別縁故者(とくべつえんこしゃ)」という制度です。
本コラムでは、この制度の仕組みや法律上の位置づけ、実際の手続きの流れ、注意点などを、できるだけわかりやすく解説します。
目次
1. 特別縁故者とは何か?法律上の位置づけ
特別縁故者は、民法第958条の2が定めるものです。条文は次のようになっています:
第958条の2
前条の場合【筆者注:後述する公告期間内に相続人としての権利を主張する者がいない場合】において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
2 前項の請求は、第九百五十二条第二項の期間の満了後三箇月以内にしなければならない。
この条文が意味しているのは、以下のポイントです:
・相続人がいない場合に限り使える制度であること
・被相続人と一定の密接な関係があった人が対象であること
・家庭裁判所が審判を通じて、遺産の一部または全部を与えることができること
つまり、法律上の家族(法定相続人)ではないけれど、生前に深い関わりがあった人に相続財産が分与されるチャンスがあるという制度なのです。
2. 特別縁故者に該当する具体例
条文上、
①被相続人と生計を同じくしていた者
②被相続人の療養看護に努めた者
③その他被相続人と特別の縁故があった者
が特別縁故者に当たるとされています。では、具体的にどのような人が特別縁故者として認められるのでしょうか?
■ 実務上、認められることの多い例:
・被相続人の内縁の配偶者(法律婚ではないが、夫婦同様に暮らしていた)、同性パートナー
・被相続人の介護や看病を長年続けてきた相続人でない親戚や友人
・被相続人と同居し生活費を共有していた人(ルームシェアや共同生活)
■ 認められにくい例:
・たまたま知り合いだった程度の関係
・正当な報酬を得ながら被相続人の世話をしていた施設職員
・何年も会っていない旧友や元配偶者
法人や団体であっても、特別縁故者として認められる場合があります。
重要なのは、形式的な関係ではなく、実質的にどれだけ深くかかわっていたかです。これは裁判所が判断するため、単なる主張では足りず、「証拠」が必要です。
3. 特別縁故者として認められるまでの手続
特別縁故者として財産の付与を受けるには、以下のような流れになります:
Step1:戸籍取得による相続人調査
まずは、戸籍調査をして相続人がいない(らしい)ことを確認します。
Step 2:相続財産清算人の選任(民法952条1項)
家庭裁判所に「相続財産清算人」の選任を申し立てます。これは亡くなった人の財産を管理・清算する役割を担う人で、弁護士などが選任されるのが一般的です。
申立ては、検察官、債権者、受遺者に加え、特別縁故者に当たると主張する者も行うことができます。
Step 3:相続人の捜索(公告、民法952条2項)等
家庭裁判所により6か月以上の期間を設けて、官報に「相続人がいれば名乗り出てください」といった公告が出されます。戸籍に表れない相続人を探す手続きと考えてください。この期間中に誰も名乗り出なければ、「相続人がいない」ものと判断されます。また、債権者等呼び出しの公告が行われます。これらは家庭裁判所側が行います。
Step 4:特別縁故者に対する相続財産分与の申立て(民法958条の2)
公告期間が終わった後、3か月以内に家庭裁判所に申し立てる必要があります。
この際に必要な書類:
・申立書
・申立事情説明書
・申立人の住民票又は戸籍附票
・申立人が被相続人の特別縁故者に当たることを示す証拠(同居の記録、介護記録、写真、日記など)
Step 5:家庭裁判所による審判
提出された資料をもとに、家庭裁判所が審理を行い、特別縁故者に該当するかどうか、そしてどれだけの相続財産を分与するかを決定します。
この際、家庭裁判所は、相続財産清算人の意見を参考に判断するため、相続財産清算人の選任後は密にやり取りを行い、自身が特別縁故者に当たることを証拠をもって説明することが重要です。
4. 特別縁故者制度を使う上での注意点
● 証拠の確保がカギ
いくら「自分は特別縁故者に当たる」と主張しても、客観的な記録や具体的な証言がなければ裁判所には認められません。介護日誌、家計簿、手紙、写真、音声記録など、客観的な証拠を残しておくことが大切です。また、申立人のみならず、被相続人との関係を熟知している関係者の陳述書を提出することも有効です。
● 期限を過ぎると申立てできない
特別縁故者の申立てには公告終了後3か月以内という厳格な期限があります。うっかり期限を過ぎると、申立て自体ができなくなります。
● 相続財産清算人選任の申立てには予納金が必要
相続財産清算人選任の申立てには、選任された清算人の報酬の担保等のため予納金が必要となります。相続財産の清算により換価金ができれば清算人の報酬等は相続財産から支払われますので、使わなかったことになる予納した金員は返却されます
● 分与を得るまでにはには通常、1年以上かかる
分与の判断を得るまでには、通常1年以上を要します。その間、相続財産をどのように管理するかは、選任された相続財産清算人と密に連携をとる必要があります。また、必ずしも世間一般に認知された制度ではないため、周囲の方にも説明をしなければならない場面があるかもしれません。
5. まとめ
・特別縁故者とは、相続人がいないときに、被相続人と特別な関係があった人が遺産の全部または一部を受け取ることができる制度です(民法958条の2)。
・適用には、相続財産管理人の選任、公示期間の終了、相続財産分与の申立てが必要です。
・証拠資料の提出が重要であり、形式的な関係より実質的な生活のつながりが重視されます。
・当事務所では、特別縁故者申立ての前提として必要な相続財産清算人の申立てから包括的にご対応しています。
・予納金の負担や長期間の手続等、制度の利用にはいくつかのデメリットも存在します。まずは、遺言の作成等、生前からの対策を行うことが重要です。