石川安藤総合法律事務所

相続法改正のポイントと影響

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相続法改正のポイントと影響

相続法改正のポイントと影響

2025/04/18

近年、日本では相続法が大きな見直しを受けました。この改正は、遺族や相続人にとって重要な影響を及ぼすものであり、その内容は多岐にわたります。もっとも、今までの判例実務を踏襲した部分も多いです。今回は、相続税法の改正の概要をご説明したいと思います。

【配偶者保護】

配偶者の居住権を保護するための規定(短期的保護、長期的保護)

配偶者保護のため持ち戻し免除の意思表示の推定規定

【遺産分割】

遺産分割前の預貯金仮払制度創設

一部分割の明文化

遺産分割前に遺産に属する財産を処分した場合の遺産の範囲の確定の制度

【遺言・遺言執行】

自筆証書遺言の要件緩和

自筆証書遺言の法務局保管の制度創設

遺贈の担保責任

遺言執行者の権限の明確化

【遺留分制度】

遺留分減殺請求から遺留分侵害額請求

遺留分侵害額算定における債務の取り扱い

【相続人以外にかかる新制度】

特別寄与料の制度創設

 

目次

    仮払い

    仮払い制度

    民法第909条の2

    各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の3分の1に第900条及び第901条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。

     

     

    平成28年最高裁の判例変更前は、預貯金債権は、相続開始と同時に分割債権化されたものとして原則遺産分割の対象とならないとされていました(相続人全員が合意すれば遺産分割の対象となります)。相続人各人が金融機関に対し、法定相続割合で払い戻しを請求できました(実際には銀行にて、紛争回避のため拒んでいたケースもありますが、法的には可能でした)。

    しかし、例えば、遺産が預金しかないような事案において、相続人Aに特別受益があるにもかかわらず、相続人Bが預貯金債権を遺産分割の対象とすることを拒めば、相続人Bが法定相続割合で預貯金を取得してしまい、相続人Aがこれを回収することができないうという実務上の弊害がありました。

    そこで、平成28年最高裁は、預貯金債権は相続開始と同時に分割債権化されるのではなく、遺産分割の対象となると判例変更しました。

    当該判例変更を受け、各金融機関では、遺産分割が成立しなければ、預貯金債権の払い戻しに応じないとの運用を「厳格化」しました(元々、平成28年前の相続開始と同時に分割債権化するとの判例に反し、相続人全員の確認が無ければ出金には応じないとの金融機関もありましたが、弁護士が内容証明を出す等で対応可能なケースが多かったと認識しています)。

    しかし、判例・金融機関の実務の変更で、相続人が、遺産分割成立まで、まったく出金ができないとの弊害がありました(例 配偶者の生活費)。そこで、遺産分割成立前の仮払いの制度が制度化されました。これは、要件さえ満たせば、裁判所の手続きを要しません。当然に金融機関に対し請求できます。それゆえ、相続人間の公平を害さないように限度額が設けられています。

     

    配偶者短期居住権

    第1037条

    配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合には、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める日までの間、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の所有権を相続又は遺贈により取得した者(以下この節において「居住建物取得者」という。)に対し、居住建物について無償で使用する権利(居住建物の一部のみを無償で使用していた場合にあっては、その部分について無償で使用する権利。以下この節において「配偶者短期居住権」という。)を有する。ただし、配偶者が、相続開始の時において居住建物に係る配偶者居住権を取得したとき、又は第891条の規定に該当し若しくは廃除によってその相続権を失ったときは、この限りでない。

    ①居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合 

     遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から6箇月を経過する日のいずれか遅い日

    ②前号に掲げる場合以外の場合 

     第3項の申入れの日から6箇月を経過する日

     

     

    被相続人が死亡した場合、同じように高齢である配偶者の居住権を保護するため制度です。

    民法改正前は、判例により、被相続人と相続人の間で、相続開始時を始期とし、遺産分割時を終期とする「使用貸借契約」が成立したと「推認」されるとの理屈で、配偶者の短期の居住権を保護していました。

    しかし、居住用不動産が第三者に遺贈されたような場合や(使用借権は弱い)、被相続人が反対の意思表示をしていた場合(推認が覆される)でも、配偶者の居住権を保護するため、立法化されました。

    長期配偶者居住権

    第1028条

    被相続人の配偶者(以下この章において単に「配偶者」という。)は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の全部について無償で使用及び収益をする権利(以下この章において「配偶者居住権」という。)を取得する。ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない。

    ①遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。

    ②配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。

     

     

    高齢化社会が進み、相続発生時点における被相続人年齢もその配偶者年齢も以前に比べ飛躍的に高くなっています。高齢者配偶者が、それまで長年居住してきた住環境を継続する居住権を確保しつつ、その後の老後資金のため、自宅(居住権)以外の一定の遺産(金融資産)を確保させる必要性に配慮した改正になります。

    改正前

    長年住み慣れた住環境の維持の要請を満たすためには、遺産中、①建物所有権を取得するか、建物所有権を取得した他の相続人から、借りる(②有償の賃貸借契約又は③無償の使用貸借契約)などする必要がありました。

    しかし、①建物(不動産)所有権を取得しようとすると、その評価額が高くなり、不動産以外の金融資産を遺産として取得できず老後資金確保の点から酷な場合が生じました(遺産として不動産しかないような場合には、不動産を売却して金銭での分割をせざるを得ないケースもあった)。②賃貸借契約も③使用貸借契約締結による解決策も、建物所有者が合意に応じなければ実現しません(配偶者・子間で遺産争いをするケースで、子が配偶者=親に、そのような合意を求めることが困難なケースが多いのが実情です。その期間中は建物の自己使用や処分ができないからです)。

    そこで、配偶者に居住建物の使用収益権限のみ認め、処分(売却換価等)権限のない新たな権利(配偶者居住権)を創設することによって、遺産分割の際に、配偶者が居住建物所有権を取得するよりも低廉な価格で居住権を確保することができ、かつそれ以外の一定の遺産(金融資産)を確保することで老後の資産を確保できるように法改正がなされたのです。

    持ち戻し免除の意思表示の推定

    第903条

    共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

    遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。

    被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う

     

     

    婚姻期間20年以上を経過した後になされた生前贈与・遺贈については、当該遺贈につき持戻し免除の意思表示があった(=配偶者の特別受益を考慮する必要はない)ものと推定させることで、遺産分割時に考慮しなくてもよいような制度設計もなされている。

    なお、法改正前にも、長期間の婚姻関係にあった配偶者に対する生前贈与等について、持ち戻しの免除の黙示の意思表示があったとする運用もあったが明文で規定されたものです。

    但し「推定」規定の為、他の相続人により覆される可能性がゼロではない点には注意を要します。

     

    推定する:異なる事実を示す証拠がを出し(反証)、覆すことができます。

    みなす:事実がどうであるかに関わらず、その事実があったものとして取り扱うという意味です。反証は認められません。

    弁護士が語る:相続法改正の実務への影響

    民法改正前、遺産分割前に特定の相続人が遺産に属する財産を処分した場合の遺産の範囲に関する明文規定はありませんでした。実務では、遺産分割が相続時に存し「分割時にも存する」財産を相続人間で分配する手続きとの考え方から、前記のような場合、原則として「分割時に存する」財産を分割するとし、遺産分割前に処分された財産については、遺産分割時には考慮しないとしていました。

    他方で、「分割時に存しない」財産でも、全相続人が処分された財産を遺産に持ち戻して遺産分割の対象とすることを合意した場合には、例外的に処分されてしまった財産も含めて遺産分割のの対象とするとの扱いをしてきました。

    しかし、全相続人が合意しない限り原則論に戻り、遺産分割前に処分された財産を遺産分割で考慮することができず相続人間で不公平な結論となっていました。特に、処分行為をし自分だけ利益を得た相続人が持ち戻しに合意することは少なく問題でした。

    これを改善するため、民法が改正されました。処分した相続人の合意は不要です。しかも、別途民事訴訟等を要せず、家庭裁判所の審判で戻すことができます。

    民法906条の2

    1項:遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合、全相続人が同意した場合には、分割時に存しない財産  も遺産分割の対象とすると規定

    2項:一部の相続人が遺産分割前に特定の相続人が遺産に属する財産を処分した場合、当該処分をした相続人の同意は不要とした。

    特別寄与料

    相続人が、被相続人に対する特別の療養看護等の貢献があった場合に、遺産分割において、遺産から一定の増額分配を受け、相続人間の公平を図る制度として「寄与分」の制度があります。しかし、「寄与分」の制度は、「相続人のみ」に認められるため、例えば、相続人の妻が、被相続人(夫の父)の療養看護を行い、被相続人の財産の維持・増加に寄与した場合であっても、遺産分割において、相続人の妻は、相続人ではないため、寄与分を主張するなど財産的請求をすることができませんでした。

    そこで、実務上、相続人(夫)の配偶者(妻)が療養看護を行って被相続人の財産の維持・増額に寄与した場合に、相続人である夫の寄与分として考慮するという解決方法が模索されていました。法的には、配偶者(妻)が、相続人(夫)の履行補助者とする構成を説明する審判例もあります。しかし、やはり寄与分が相続人であることが前提であるため、全ての裁判所・事案で認められていたわけではないし、かかる解決方法は万能ではないといえます。また、相続人(夫)が先に死亡してしまい相続人でない場合、配偶者(妻)の療養看護の寄与を、相続人の寄与分と考慮することは解決できない等前記工夫だけでは解決できないケースが散見されました。

    ところで、従前から、相続人がいない事案において、被相続人の療養看護に務めた者に対し遺産の全部または一部の遺産を分け与える制度として「特別縁故者」という制度がありますが、相続人がいる場合には認められないので、先ほどの相続人の妻の事案では利用できません。

    そこで、相続人以外の者の貢献を考慮するための制度として「特別寄与料」が創設されました。

    相続人ではない者(相続人の配偶者等)が被相続人の療養看護に務るなどの貢献がある場合、その貢献をした自身に、一定の財産を分け与える(特別寄与料)としたものです。

    自筆証書遺言の要件緩和

    自筆証書遺言の要件の1つに、全文自書で作成することがあります。しかし、遺産が多い場合等に記載ミスにより遺産の特定ができず無意味な遺言となるケースがありました(当職もこれで、勝訴し、依頼者に大変感謝されたことがあります)。厳格な要件は遺言者の負担です。弁護士としては、遺言能力の問題もあり早めに作るのが好ましいと思っていますが、遺言作成を考えるようになるのが高齢になるなど事情があるケースが多いことから、どうしても大量の自書が困難なケースが生じてしまうのです。

    そこで、自筆証書遺言に遺産目録を添付する場合、その目録は自署を要しない(パソコン等による作成、代書、不動産登記や通帳のコピーの添付)という要件の緩和が行われました。

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