特別受益とは何か?条件と影響を解説
2025/04/15
目次
特別受益とは?
今回のコラムでは、相続の事件で争点になりやすい「特別受益」について説明したいと思います。
遺産分割事件では、①遺産の範囲の確定、②不動産等の評価、③特別受益・寄与分による法定相続の修正(具体的相続分)、④具体的分割方法と考えます。
「特別受益」は、法定相続通りでは不公平ではないか?、すなわち、実質的公平を模索するという視点で考える事情です。
特別受益の典型例は生前贈与ですが、全ての生前贈与が当てはまるわけではありません。法文の要件(下記)と、遺産の前渡しといえるか?という基準で考えます。
また、そもそも、(生前)贈与か否かを考えなければいけません。被相続人から相続人に対する金銭給付があった場合でも、それが法的に贈与ではなく、扶養義務の履行としてなされた場合には、贈与ではないので、特別受益でもないのです。
第九百三条 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
特別受益に関する法律用語
最初に、用語について記載します
・みなし相続財産:相続開始時に存した積極財産に相続人が受けた生前贈与(相続分の前渡し)を加算した財産です。
・持戻し:相続時に存する財産に特別受益を戻し、相続分算定の基礎に加える計算です。みなし相続財産の説明の最後にある「加算」のことです。
・(特別受益がある相続人の)具体的相続分:みなし相続財産に相続割合をかけ、各相続人の相続分を算定します → 特別受益がある相続人については、これから特別受益を控除し、その残額が具体的相続分となります。
・持ち戻し免除の意思表示:別受益を持ち戻さないという意図を示すことです。明示の場合と黙示の場合があります。
特別受益がある場合の処理
具体例で考えると分かりやすいと思います。
【例1】
相続時に存する積極財産:3500万円
相続人:子A、子B、子C
生前贈与:子Aは1000万円、子Bは300万円、子Cなし
3500万円を単純に1/3で分けると、子Cが不公平感を持つため、実質的平等を図ります。
みなし相続財産:相続時に存する積極財産:3500万円に、子Aの1000万円、子Bの300万円を持ち戻した、4800万円になります。
各人の具体的相続分:子A (4800×1/3)-生前贈与1000万円=600万円
※生前贈与1000万円+今回相続で600万円=1600万円
子B (4800×1/3)-生前贈与300万円=1300万円
※生前贈与300万円+今回相続で1300万円=1600万円
子C (4800×1/3)-生前贈与なし=1600万円
※今回相続で1600万円
各人が1600万円宛遺産からもらったことになり公平になりました。
【例2】
仮に、子Aに対する生前贈与が2200万円だったとしたらというケースで考えます。
みなし相続財産:相続時に存する積極財産:3500万円に、子Aの2200万円、子Bの300万円を持ち戻した、6000万円になります。
各人の具体的相続分:子A (6000×1/3)-生前贈与2200万円=▲200万円
子Aは,今回の相続で何も財産を承継できないだけではなく、200万円を遺産に返さなければならないのか?と思われるかもしれませんが、(遺産分割における)特別受益は、生前贈与を受けた相続人に、既受領の遺産を吐き出し返還させることまでは要求していません。あくまで、今回の相続でなにも取得できないだけです。
但し、他の相続人の遺留分が侵害されるほど大きな生前贈与がなされている場合は、遺留分侵害額請求の問題になります。
特別受益の具体例
民法の条文上、「共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは」と規定しています。
そこで、まず被相続人の相続人に対する生前贈与等である必要があります。
生前贈与については「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与」と規定されています。「婚姻のための贈与」「養子縁組のための贈与」と、「生計の資本として贈与」という特別の生前贈与である必要があります。
婚姻のための贈与、養子縁組のための贈与
・婚姻時、養子縁組時の持参金
一般的には、婚姻、養子縁組のための贈与として、特別受益と評価すべき場合が多いと思われます。しかし、被相続人の遺産規模・生活水準、給付された金額から、親が子のために「扶養(の一部)」として行った金銭給付と評価されれば、特別受益には当たりません。
・結納金
一般的には特別受益にならないといわれます(家・相手方の親との問題だからと言われます)。
・挙式費用
見解が分かれていると思われますが、親の子に対する扶養の一環と考えてよいケースがあると思われます。
・高等学校卒業後の教育(大学・専門学校、留学など)にかかる費用
見解が分かれていると思います。また事情にもよると思われます。
将来の生活の基礎となる教育にかかる費用であり、原則(親の資力等にかかわらず)生計の資本に該当するという見解があります。
一方、私立医学部の教育費のように特別多額なものに限り特別受益となると考える見解があります(この見解では、学費の負担は、子の能力・特性に応じた子に対する扶養の1つであると考えているといわれます)。
(大阪高裁平成19年12月6日)
相続人の一部が大学や師範学校等といった当時としては高等教育と評価できる教育を受けていく中で、子供の個人差その他事情により、公立・私立などが分かれ、その費用に差が生じることがあるとしても、通常、親の子に対する扶養の一内容として支出されるもので、遺産の先渡しとしての趣旨を含まないと認識するのが一般であり、仮に、特別受益と評価しうるとしても、特段の事情のない限り、被相続人の持ち戻し免除の意思が推定されるというべきであると判断しています(後者に近い考えと考えます)。
生計の資本としての贈与
生計の基礎として役立つような財産給付をいい、「生計の基礎」と評価できるかは、趣旨・金額(高額=遺産の先渡しと評価されやすい)等から判断します。「生計」に関係があり且つ「資本」との要件がありますので、ある程度まとまった金額の財産的給付であることが要件になっています。
・自宅不動産の贈与、借地権の贈与
一般的に特別受益となると考えます。
・自宅不動産取得のための資金援助
一般的に特別受益となると考えます。
・営業用資金の援助
一般的に特別受益となると考えます。
「生計の資本としての贈与」と区別しなければいけないのが、「扶養義務に基づく援助」です。
・親の通常の援助の範囲内でなされたお祝い(入学祝、新築祝い)
・稼働できない子(精神疾患)、身体障害、疾病を有する対する子に対し、親が扶養義務に基づき援助する場合は扶養義務、と特別受益に該当しません。
なお、ある程度の年齢になり、自力で生活ができる能力があり要扶養状態にない子に対する援助は、特別受益に該当場合(評価)もあると考えるとしても、被相続人が扶養の意思があり、金額・状況等から考え、特別受益ではあるが、黙示の持ち戻し免除の意思表示があったと考える場合もあると思われます。
・相続人全員に同程度の生前贈与がなされている場合、黙示の持戻し免除の意思表示があると評価されることがおおいと思われます。そのため、大学の教育費用などが扶養の範囲内とは言えず、特別受益と考えたとしても、相続人全員が同程度の大学の教育費用を受けている場合には、特別受益に該当しないと考えることになると思われます。
・遊興費支払いのための金銭給付は該当しないことになります(生計の資本ではないからです)。
・相続人の借金を被相続人が肩代わりし、返還を求めない(求償権の放棄)場合には特別受益と判断し、返還を求める場合には被相続人の遺産として相続人に対する求償債権が存在すると扱うことになると思われます。親族間で返還を求めないとの明示の合意は考え難いので、長年返済を求めていない等の事実状態から推認することになると思われます。
少額贈与
「生計の資本」「遺産の先渡し」と評価しうる高額な贈与は、一般的に生計の資本としての贈与となり、特別受益となります。
逆に、短期間で費消してしまうような少額の生活費の贈与や、小遣いは、「生計の資本」「遺産の先渡し」とは評価できず、特別受益とはいいがたい場合が多いと考えます。被相続人の資力などから考え、ケースバイケースですが、過去の裁判例を見ると、10万円以下は少額と考えることが多いと思われます。
問題となるのが、少額の贈与が、長期間繰り返され、総額が多額になっている場合です。
一部が特別受益になる場合があると考えることになると思われます。ただ、どこまでが扶養で、どこからが特受益と考えるかは、統一的見解にまではなっていません。
被相続人の資力などから考え、各援助時に扶養義務の範囲内といえる金額を観念します。この金額内の金額は扶養の範囲または持ち戻し免除(黙示・推定)の対象とし、これを超えるような高額な部分は扶養義務の履行範囲を超え、持ち戻し免除の意思(黙示・推定)が及ばないとして、持ち戻しの対象とされると考えます。
ただ、扶養の範囲といえる金額が一律決まっているものではなく、計算の仕方も複数観念しえるため(1回の送金額で判断する考え方、1月の送金額合計で判断する等。ケースバイケースであり、見解が分かれている。特別受益か、持ち戻し免除の意思表示か)、統一的解決の仕方が形成されているわけではありません。